人はどのように音を感じているのか?

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不幸な勘違いを減らしたい。けど。。

ある音と音の違いを識別できるかどうかは、殆どの場合その人の経験に依存するようです。

前回、音の方向や空間の認識は、経験や訓練で獲得されるもの。
と書きました。
実はこれ、方向、空間だけでなく、音色、音程等も含んだ音の聴き取りや聴き分けでもいえますし、更に広く見渡せば、五感全体に言えることでもあります。

オーディオの仕事をしてたり、録音、PAの手伝いをやっている中で、音の識別については、個人差というより、人それぞれで識別の仕方が違うんじゃないか?
というのは経験則的に感じていたことでもあります。
もっと突っ込んで言うと、人によって、そもそもの聞こえ方、感じ方からして違うんじゃないか?
とも思っています。

わかりやすい例でいうと、いわゆる「絶対音感」を持つ人と、持たない人というのがあります。
音階、ピッチをセント単位で認識、識別できる方もいますし、テレビで流れた曲をアレンジ含めて一発でコピーできちゃう人もいます。
私には無理です。はい。

また、圧縮音源はもとより、CD等のデジタル処理した音楽は聴くに堪えないと仰る方も少なからずいらっしゃいます。
一例として、私の友人が、「僕もCDは気持ちが悪い」というので、どう感じてるのか教えてほしいとお願いして聞き出した事があります。
彼は、CDは「ピッチ(音程)がズレて聞こえる」といいました。
CDのワウ/フラッターは水晶精度で、到底人が聴き分け出来るレベルではありません。アナログレコードの方が偏心もあるので周期的に盛大にピッチが上下します。
しかし、彼はアナログレコードのそれは大丈夫だとも言います。
よくよく突っ込んで聞くと、どうやら彼は、楽器の基音と倍音を聴き分けていて、そのセットで音程を感じているらしく、CDだと基音と倍音のピッチがズレて聞こえるそうで、音程がさっぱりつかめなかったり、そもそも楽器の音として整っていないので、気持ち悪いということのようでした。
レコードのピッチずれ(揺れ)は、全体で連動するので、バラバラにならず、ちゃんと補正できるから問題ないんだそうです。
また、この気持ち悪さは、CDプレーヤーで発生しやすく、外部の独立したDACを使うとかなり改善されるとも言っていました。
最近ではだいぶ慣れた(アナログオンリーに戻る気もないので慣れる訓練をした)らしいのですが、それでもとびっきり気色悪く聞こえるCDがあり、なんか壊れてるんじゃないかとよく見たら、CCCD(コピーコントロールCD=規格外のCDもどき)だったそうです。

もちろん、私はそんな明確な感じ方はできません。
せいぜい、CCCDの音は嫌いだったり、CDプレーヤーの機種によって「なんだかイライラする」と感じる程度で、楽器の単音ピッチが不揃いだなんて感じた事はありませんでした。

別な例として、私がメーカーに勤めていた時、アキバの今はなき某販売店の高級オーディオコーナにいた社員さんに、機器ごとの音の違いは明確に聞き分けられるのに、左右逆相でも気づかないと言う人がいました。(最近、別の量販店のオーディオコーナーにも「これ左右逆相だよ」と言ってもわかってくれない方がいらっしゃいましたが。。)

また、ピアノの違いはわからないけど、ギターのディストーションにはこだわっていて、音を聞くだけでエフェクターの銘柄を当てられるなんて言う人も知っています。
私にはただの歪みの種類の違いくらいにしか聞こえないです。

私には絶対音感などありませんが、メーカー勤務の頃は自社製品と他社製品の区別はもとより、隣の部屋で鳴ってる製品が何かわかりましたし、最近でもハウリングやその前兆、共振、ノイズ、不自然なコンプにはやたら敏感で、EQやノッチフィルターの設定、ハウリングしにくいマイクセッティングは結構得意だったりします。
これは毎日10時間以上自分の会社の機械と向き合い続けたり、PA、録音現場の場数を踏んで訓練されただけのことであって、自分の耳がいいとは思っていません。
こんなのぶっちゃけ職業病です。
なので、私の音楽との付き合い方、音の識別の仕方は、他の方とはずいぶん違うんだろうなぁとも思っています。

先日、別の友人と、とあるサイトの主宰者さんが表現されていた「軽いけど厚い低音」の解釈について議論しまして、その中で私が、もしかしたら、その方は僕らと違う音を聴いてるんじゃないか?
という話をしたところ、翌日、彼がwebで大変興味深い記事を見つけられました。

「聴かない訓練」
http://mushiofunazawa.com/text/kikanai.html

まさにこういうことですね。

音がどう違うか(どう聞こえるか)を説明するには、ものすごく抽象的になっちゃったり、技術的に明確に説明できることであっても、それを意識的に聴き分けたことがなければ実感はできません。
なので、分かってくれる方と、分かろうとしてくれる方と、分かったふりをしてくれる方と、分かっていただけない方がいらっしゃいます。
また、悲しいことに、その聞こえ方の「違い」を「優劣」と捉えてしまう方もいらっしゃいます。

相手は自分と違う感じ方をしているかもしれない。
自分は感じても相手には感じてもらえないかもしれない。
相手には感じられても自分には感じられないかもしれない。
自分の感じたことには客観性があるんだろうか。
善し悪しと好き嫌いを間違えてはいないだろうか。

自分や周囲との違いを許容、寛容できるかどうか。

これは経験と人間性が試されると思います。