アンプとスピーカーとインピーダンスと
以前のエントリーで、コンポーネントがシステム全体の音質に与える影響力について、スピーカーが一番大きいと書きました。
しかし、 私自身、アンプを変えたことで、それまで使っていたスピーカーに我慢できなくなったとも書きましたし、最近ではディスクリートアンプまで組み始める始末。。
これだけみると、なんだアンプの影響力も大きいじゃん!ということになってしまいますね。(苦笑)
また、いくつかの(特性の良い、評価の高い)アンプの聴き比べをした時に、良い悪いとか好き嫌いとは別に、明らかなエネルギーバランス(特に低音の出方)の違いを感じた経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
カタログ特性だけ考えればアンプで大きな変化は生じない筈なのに、一体どういうことなのか?
という事で、今回はアンプとスピーカーの組み合わせによる違いについてです。
私が件のエントリーで、アンプではなくスピーカーに戦力外通告をした際の理由は「インピーダンス」でした。
インピーダンス。。。。。
オーディオ(というか電気/電子機器)をいじってると「なんとかタンス」がいっぱい出てくるんですが、インピーダンスはその代表格ですね。w
記号はZ 単位はΩ
同じΩという単位を使う別のタンスがあります。
抵抗(レジスタンス)
記号はR 単位がΩ
抵抗と言ってしまえば、こちらの方が一般的ですね。
インピーダンスとレジスタンス(抵抗)の違いは何かとざっくり言ってしまうと、レジスタンスは直流の抵抗値で、インピーダンスは交流の抵抗値です。
インピーダンスは、大抵の場合、値が周波数で変化します。
抵抗器のインピーダンス周波数特性は基本的にフラットだけど、スピーカーなどのインピーダンス周波数特性はカーブを描くということです。(注1)
単位がΩというからには、インピーダンスもオームの法則の支配下にあります。
インピーダンスは、
・ある周波数における抵抗値
・値は周波数で変わる
と思っていただければいいです。
アンプとスピーカーについて言うと、
アンプには出力インピーダンス(注2)があり、
スピーカーには入力(内部)インピーダンスがあり、
途中のケーブルにもインピーダンス(注3)があります。
で、ここからが本題。
というか、いきなり答え書いちゃいます。(笑
アンプとスピーカーの(インピーダンスの)組み合わせによっては、実際の周波数特性が大きく変化することがある。
つまり、
組み合わせによってはカタログ通りの周波数特性にはならない。
という事です。
これは、ヴェールを取ったり、薄皮を穿いだり、霧を払ったり、窓枠を取ったり。。なんていう「感覚的な違い」とは別世界の、「測定可能な物理的な事象」です。
このことは、あまり広くは認識されていないようです。
といいますか、ぶっちゃけ80年代のオーディオ全盛期には既に、ほぼ議論の余地なしの前提条件化していたこともあり、忘れ去られていたと言った方がよいかもしれません。。
事実、私も、25年以上前に師匠から「忘れていい」と言われて忘れてました。
その前提条件とは、
アンプもスピーカーも基本的に定電圧駆動で考える。(つまり、真空管アンプは忘れていい。)
です。
これは、アンプの出力インピーダンスが極力小さな値であること(ダンピングファクターが大きいこと)を大前提として考えることを意味します。(注4)
しかし、最近どうにも、その前提では説明がつきにくいことが多くなってきました。
よくよく考えなおしてみたら、昨今のオーディオ機器は、真空管アンプの復権やデジタル(D級)アンプの隆盛等があったりして、アンプの出力インピーダンスが高めのものが混じってきたり、先鋭的な層に人気のスピーカーが、強力磁気回路と軽量振動板のオーバーダンプ系だったりして、コンポーネントの特性が、前の時代のものと、後の世代のものが混在しちゃってるんですね。。
これでは前提が崩れちゃうので、もうシッチャカメッチャカ(注5)です。
スピーカーのインピーダンスは、原則としてそのスピーカーセット(単体の場合はユニット)の最低インピーダンスを表示することになっていますが、実態は周波数によって数Ω〜数10Ωと大きく変化するのが一般的です。(注6)
アンプの出力インピーダンスは、直接表示されていることがほとんどありません。
トランジスタアンプはダンピングファクターから計算します。
ダンピングファクターは基本的に「 8 ÷ 出力インピーダンス」なので、アンプの出力インピーダンスは「 8 ÷ ダンピングファクター 」で求められます。(注7)
真空管アンプはダンピングファクター表示はほぼなく、対応するスピーカーのインピーダンスとして表示されていることがほとんどです。
ダンピングファクターとしては「1」前後で、アンプの出力インピーダンスはスピーカーの最低インピーダンスとほぼ同じ値で対周波数特性もフラットと考えておきましょう。(注8)
なお、定電流駆動型のアンプというのがありますが、これは極端すぎるので別の機会に書きたいと思います。(注9)
また、インピーダンスやダンピングファクターが高いから/低いから、いいとか悪いとかの話題も、今回の話からは除外します。あくまでも組み合わせで特性がどのように変化するかということを取り扱います。
さて。。
ここから計算です。
・ダンピングファクター:100のトランジスタアンプ(出力インピーダンス:0.08Ω)
・ダンピングファクター:10のトランジスタアンプ(出力インピーダンス:0.8Ω)
・出力インピーダンス:8Ωの真空管アンプ(ダンピングファクター:1)
の3種類のアンプがあったとします。
無負荷(スピーカーをつながない)状態で、アンプの出力を1Vにします。
ここに、最低インピーダンス:8Ω(1kHz)、最高インピーダンス:32Ω(50Hz)のフルレンジスピーカーをつないだらどうなるか。
オームの法則で抵抗分圧した電圧を求めればよいですね。
アンプの出力インピーダンスをZo
スピーカーの最低インピーダンスをZspL
スピーカーの最高インピーダンスをZspH
無負荷時出力電圧をVo
1kHz時のスピーカーにかかる電圧をVL
50Hz時のスピーカーにかかる電圧をVH
とした場合、
VL=Vo*ZspL/(Zo+ZspL)
VH=Vo*ZspH/(Zo+ZspH)
となります。
また、50Hzと1kHz時の電圧レベル差(dB)は、
20*Log10(VH/VL)
で求まります。
なんと!
どのアンプもカタログ上はフラットな周波数特性なのに、スピーカーにつなぐと、1kHzと50Hzの差が0.1dB以下のもあれば、4dB以上あるのもあります。
ここまで違うとキャラクターというレベルではなく、土俵が違うというレベルで、方式的な問題にも見えてきます。
繰り返しますが、だから真空管がよくないなどという話ではありません。
真空管は真空管なり、トランジスタはトランジスタなりの使い方、組み合わせ方があります。
例えば、カタログ上では低域レベルの低い、古い大型のスピーカーや、小型の密閉スピーカー、軽量コーンに強力磁気回路のフルレンジなどは、トランジスタアンプではスッカスカでも真空管アンプを使うとバッチリになることがあります。(注10)
ということで、
一般的なトランジスタアンプで考えた時には(=アンプの出力インピーダンスが充分に小さい=ダンピングファクターがある程度大きければ)アンプの違いより、スピーカーの違いの方が、音の変化に対して大きな影響力を占めるということは変わりませんが、様々な(出力インピーダンスの幅が大きい)アンプが選択肢に入ってくると、アンプとの組み合わせによってスピーカーが初めてそのポテンシャルを発揮できる場合があるということになります。
つまり、現在入手可能なアンプの中には、その特性から得意/不得意なスピーカーの組み合わせが存在するとも言えます。
注1:
正確には、インピーダンスは、実数部のレジスタンスと虚数部のリアクタンスに分解されます。直流には虚数部がないので直流抵抗値=レジスタンスになります。
また、抵抗器はリアクタンス(コイルやコンデンサの成分)がとても小さいので、周波数に依らずインピーダンスがほぼ一定になります。
注2:
アンプの出力インピーダンスを、内部インピーダンスと呼ぶ方もいますが基本的に同じことです。
「アンプの内部インピーダンス」だと、入力だか出力だかわかりにくいので、私は使いません。
注3:
ケーブルのインピーダンスは2種類あって、線自体の持つ電気的なインピーダンスと2線以上の電線に交流を流した際に現れる特性インピーダンスというものがありますが、ややこしいのでここでは無視しておきます。
注4:
当時も真空管ファンは(たぶん今より)大勢いましたが、それよりも全体のオーディオ人口が今より桁外れに大きく、真空管アンプは風前の灯、一般的には無視できるものでした。
また、真空管アンプのファンは、この前提条件に嵌らないことを知っていて、独自にスピーカーと組み合わせていたので、トランジスタアンプ系の製品と競合(バッティング)しない状態でした。
さらに、ダンピングファクターは大きい方が高性能という表現もこの前提条件を後押しします。
注5:
余談ですが、こーゆー物理的な違いを無視して「こっちじゃなきゃダメ」とか「あれはダメ」とか断じられちゃったり、物理的な事実を踏まえず、イロイロ穿いでみたり、窓枠工事に勤しんだり気象実況してるのは見るに忍びないです。
まあ、趣味の世界なので、その方がよければそれはそれでよろしいと思いますので止めはしません。
ただ、この道のプロまで変なことを言ってることもあり、プロがオームの法則にケンカ売るのもいかがなものかなぁ、とは思います。。w
注6:
実測すると最低インピーダンスはカタログ表示より低いことがよくありますが、とりあえずここでは置いておきます。
注7:
ダンピングファクターは、1kHz時の値か、チャンピオンデータであることが多く、ギャランティー(保証)値であることは稀です。
多くのトランジスタアンプは、高音域ほどダンピングファクターが減少(出力インピーダンスが上昇)しますが、今回は便宜上フラットということにしておきます。
注8:
真空管アンプも実際には回路構成でインピーダンスも周波数特性も大きく変わるのですが、今回は出力インピーダンスによる違いを見出すことが目的なので、スピーカーの最低インピーダンスでフラットということにしておきます。
注9:
定電流駆動型のアンプは、原理的には出力インピーダンスが無限大(実際には数kΩ程度)で、電圧と電流をひっくり返して考える必要があり、スピーカーのインピーダンスが高い周波数で振幅が大きくなりすぎるため、扱いがとても難しいアンプです。
私が知ってる限り、スピーカー用の製品としての定電流駆動型トランジスタアンプは2社のものしか流通していない様ですが、ヘッドフォン用ではそこそこ(?)あるみたいです。
また、チャレンジされている自作/改造派の方も少なからずいらっしゃるようです。
一部に定電流駆動アンプを電流帰還形アンプと混同されてる方がいますが、定電流駆動アンプと電流帰還形アンプとは別です。電流帰還の帰還ループに負荷を入れることで定電流駆動にすることが可能なだけです。
注10:
あくまでも傾向的な話で、絶対こうなるわけではありません。
スピーカーシステム(キャビネット)の設計次第でも大きく変わります。