オーディオ全盛期のプレーヤーを修理しよう。1
昔は、家電メーカー各社にオーディオブランドがあったものですが、現在はほとんど休止しています。
松下 Technics
三菱 DIATONE
日立 Lo-D
三洋 OTTO
シャープ OPTONICA
東芝 Aurex
そんな中、PanasonicがTechnicsブランドを復活させるとのニュースが入ってきました。
ハイレゾ音源対応のフルデジタル処理&D級アンプを中心とした構成で、ハイエンドとアッパークラス商品から展開する様です。
このD級アンプにはスピーカーの位相特性やインピーダンス特性を補正する新機軸な機能もあるそうで、結構「力が入ってる」と思われます。
で、その昔、Technicsが実用化したDDモーターのターンテーブルも、NewClassA/ClassAAアンプもなしですか。そうですか。。
まあ、今更オーディオ向けアナログ素子が新規に調達できるとも思えないし、マークレビンソンもD級アンプ出したりしてますし、時代なんでしょうね。
おっさん的にはちょっと消化不良。。
そんなニュースを聞いた後のとある週末、久しぶりにハードオフを覗いたらTechnics SL-1200MK3のジャンク品が1台ポツンと。
(夏前には5〜6台あったんですが、なぜか一斉になくなってたんですよね。。)
スクラッチシートはついていませんでしたが、ダストカバー、ターンテーブルシート、EPアダプターは付属。外観上破損見られずまずまずの状態でしたが、POPに「回転はスムーズですが、再生音にノイズがのります」という謎の書き込みがありました。
私はスクラッチシートは使いませんし、ノイズもなんとかなるべと引き取ってまいりました。
新生テクニクスにケチつける前に、自分がアナログ回帰してる方がよっぽどどうかしてるじゃん。ということは、この際脇に置いておきます。
というか、趣味の世界ですから、自分中心でドンドン行きます。(笑)
まずは動作チェック
アームの動作OK。
アームの高さ調整OK。(どうもロックを掛けた形跡がなかったりします。)
アームのエレベーションOK(こっちも使ってなかったのか、上げた時の位置が高すぎ。)
ターンテーブルの歪み見られず。
ターンテーブルスピンドルのガタツキなし。手回し回転もスムーズ。
電源ON。スピードインジケーター点灯、ポップアップランプも点灯。
33+1/3、45回転切替OK、PLLロックOK、ピッチシフト機能もOK。
ピッチシフトはスライダーの表示位置とシフト量が少しズレてるようですが、私は基本的に使わないし、使う人でも音程とタイミングを耳で合わせて目盛は備忘程度にしか見ないはずなので、動きがスムーズなら良しとします。
「回転はスムーズですが、再生音にノイズがのります」という部分については、静かなところでしばらく回してたら、ターンテーブルから回転に合わせて「ゴソゴソ」「ガサガサ」という擦れるような小さな音がします。
これかぁ。。
ターンテーブルを外してみたところ、何かが当たったり擦れてるような跡はありません。
その代わり、球状に丸まってる埃の塊がいくつかあります。
埃を取って汚れもふき取りターンテーブルを戻したら、見事に無音で回ります。
ありゃ、これだけ?(笑)
カートリッジを付けての調整もOK、アンプにつないで音出しチェック。
書かれていたようなノイズものらず、復活です。
あとは全体的にヤニっぽい煤けがあったのでクリーニングのため一旦バラし、ついでに配線チェックしたらアースとCOLDの接触がないので例によってバランス配線に替えて、各部を磨きながら組み直しました。
組み上げてからチェックしなおしたら、ポップアップランプが点いたり点かなかったりというか、たまーにしか点かなくなっちゃいました。
またまたバラして観察したら、麦球のフィラメントの足が切れてプラプラで、時々接触して点くという状態。
これは生きているとは言えないので交換です。
この回路はDC20Vで手持ちの麦球(8V品)では無理。なので、例によって白色LEDで置き換えました。
スイッチに突入防止の抵抗1.5kΩがついていたので、これも活用、LEDだけで完成。
あとからMK3の部品としてまだ供給があることに気づきましたが、既に替えちゃったあとだし、配線加工済みとはいえ麦球1個で\350-+送料はアホらしいので、このままで行きます。
汚れを落としたSL-1200MK3はアームもピカピカで、なんだかカッコいいです。(笑)
ケーブルも替えてバランス伝送になったのでPL-30LIIと入れ替えて聴いてみると、サウンドの傾向はずいぶん違います。
SL-1200MK3は「元気」「パワフル」な感じ、PL-30LIIは「綺麗」「華やか」な感じで、曲によっては同じ曲とは思えないほどの違いに感じたりします。
ふと思い立って、ターンテーブルシートをPL-30LIIのものと交換してみたところ、見事に変身。
その割に、SL-1200MK3のダストカバーはベコベコしてて叩くとボワンボワンと鳴くくせに、外しても着けてても音は大して変化しません。
一方、PL-30LIIの方はターンテーブルシートを変えても(変化自体の方向性は似通って聞こえますが)SL-1200MK3の時ほどの違いは感じられず、逆にダストカバーは重くてしっかりしててあまり鳴かないのに、着脱した時の変化はPL-30LIIの方が大きく感じたりします。
これだからアナログは面白い。
あと、PL-30LIIはオートストップ機能があり、演奏終了でアームが自動的に上がりターンテーブルが止まるのですが、SL-1200MK3はマニュアル機のため、演奏中に「寝落ち」すると、「目が覚めてアームを上げるまで針先の寿命の無駄遣い」となるので注意が必要です。
特にPL-30LIIに慣れた身としては。。(笑)
いまどきのレコードプレーヤーは特に高級品になるほどベルトドライブや糸ドライブが使われる傾向がありますが、70〜80年代のレコードプレーヤーはアンプの歪率よろしくワウフラッター競争が盛んで、高級品でもクオーツロックPLLのDDモーターというのが普通でした。
DDモーターはFG直読という方法で数字を稼げましたが、これはモーターの制御用信号そのものなので良くて当たり前です。
それより重要なのは、SN比です。
ここにはターンテーブルの回転の静かさと滑らかさが如実に表れます。
以下カタログスペックを時代ごとDDモーターの性能をピックアップして列記しますと、
SL-1200(1972年テクニクス 初代の1200)
SN比 70dB(DIN-B)
SP-10MKII(1976年テクニクス 高級ターンテーブル)
SN比 78dB(DIN-B)
SL-1200MK2(1981年)
SN比 78dB(DIN-B)
PL-30LII(1981年パイオニア 私の現行メイン)
SN比 82dB以上(DIN-B)
P-3a(1983年パイオニア/エクスクルーシヴ ハイエンド)
SN比 95dB(DIN-B)
GT-2000(1985年ヤマハ ご存知GT)
SN比 82dB(DIN-B)
SL-1200MK3(1989年 今回買った機種)
SN比 78dB(DIN-B)
SL-1200MK6(2007年 1200最後)
SN比 78dB(DIN-B)
DP-1300MKII(現行 デノン)
SN比 70dB以上(測定法不記載だがDIN-Bと推測)
PLX-1000(新製品 パイオニアDJ)
SN比 70dB(DIN-B)
NEU DD1200mk3(現行 SL-1200コピーのなかでも廉価品)
SN比 50dB以上(DIN-B)
これを見ますと、ウエイト掛けて数字が良くなるDIN-B測定(多くの場合、JISより10dB程度いい値になる)とはいえ、パイオニア/エクスクルーシヴ P-3aのSN比 95dBって飛び抜けています。
当時の価格も飛び抜けていましたが、今時の中古でもかなり突き抜けた価格の様です。
もちろんプレーヤーの能力を示す指標はSN比だけではありませんし、全盛期の製品は既に30年選手ですのでそれなりにメンテされてなければ性能も出ませんが、少なくとも1980年代のCD登場前後がアナログプレーヤーの性能ピークだったということはわかると思います。
言い換えれば、当時の性能は、現行製品(特にお父さんのお小遣いで楽しむプアオーディオとして手が出せる普及価格帯)では望むべくもないのが現状です。
実売13万円超の現行商品をお店で見てきましたが、アームの高さ調整機構や軸受けなどアーム周辺の構造、ターンテーブルの起動・ストップ機能等をみますと、最近のDJ用SL-1200コピー系製品の中身を使い、意匠(見かけ)をオーディオ向けに変更したものと言って差し支えないものでした。
特にアームの高さ調整機構の仕掛けまでSL-1200系と同じですし、そのロックレバーに至っては取り付け位置、形状まで一緒です。
もちろんDJ用ターンテーブルとの違いは意匠だけじゃないという反論もあると思いますが、S/N比70dB(DIN-B)というのは最近のDDモーターでは良い方ですが80年代では5〜6万円の普及機でももっといい数字が出ていました。
そう考えると、今では主要な機構部分も含めて専用に作ってたらこの価格でも出来ないんだろうなぁ。ということが透けて見えてきます。
(だから現行製品がよろしくないなんていう話ではありませんので念のため。)
SL-1200シリーズはDJ用として有名ですね。MK6まで作られて、SL-1200コピーも数多く売られています。DJ界隈ではデファクトスタンダード。
DJというイメージからか「オーディオ的には・・・」と眉を顰める方もいらっしゃいますが、そもそもで言えば初代SL-1200は普通にオーディオ用として売られており、トルクフルなDDモーターとピッチコントロール機能を活用したスクラッチやビートミックスに使われ出したのが始まりで、その後DJプレイに耐える最適化という進化はあっても、最初からDJ専用というわけでなく基本性能はちゃんとしています。
事アナログプレーヤーの場合、カタログスペックがどうとか、見かけでDJ用だから/オーディオ用だからどうとか単純に判断するのではなく、どうセッティングして使いこなすかが重要と考えます。
実際にレコードを掛けて音量モニターやアナライザー通せばわかりますが、どんなに綺麗で静かなレコードでも曲間の無音時ノイズが-60dB以下になるなんてまずありませんし、絶対に振動しない床や台もありません。
どれだけプレーヤー、アーム、ピックアップを不要な振動から守ったり不要な振動をさせないかにつきます。
SL-1200シリーズは、ちょっと手を掛ければオーディオ全盛期の性能が格安で入手でき、振動やハウリングに強く、頑丈で使い勝手もよく、ポン付けでのレベルが高い割にチューニングにもきちんと反応する懐の広さがあり、今からアナログを楽しみたいという方にも適した選択肢の一つと思います。