オーディオ全盛期のプレーヤーを修理しよう。5
私が現役時代に、一番多く修理したのがレコードプレーヤーでした。
中でもBeogram4000、4002、4004はこれでもか!というほど数をこなした機種です。
これらはリニアトラッキング(B&Oではタンジェンシャルトラッキングと呼んでいました)のフルオートプレーヤーです。
B&Oのプレーヤーはこちらで紹介されていますので是非ご覧ください。
http://beocentral.com/tangential-turntables
(初代の)Beogram4000が1972年頃の発売ですので40年以上前の製品ですね。
私が修理していたころで、すでに10年選手だった計算です。
70年代前半はレコードの生産量が一番多かったころ、日本ではDDモーターが出始めたころで、この時すでにエレガントなフルオートのリニアトラッキングシステムが完成していたことになります。
そりゃ売れるわな。。
リニアトラッキングシステムは世代で異なり、初期型に属する4000シリーズではアームの角度を検出してモーターでヘリコイドガイドを回しアームベースを移動させるタイプでした。
アーム自体は上下ナイフエッジ、左右シンバルサポートだったと記憶しています。
(機械的な故障がほぼなかった機種なので、左右のベアリング構造はうろ覚えです。。)
アームの角度検出は非接触の光学式。
演奏時の追従は送り方向のみ。
ほとんど偏心がないレコードをかけるとサーボモーターがゆっくりと回り続けるのですが、大抵コンマ何mmかはズレてるので、レコードが1回転するたびに1度クルクル回り、尺取虫みたいな動きになります。
この世代のレコードサイズ検出&回転数切り替えシステムのセンサーは光学式で、角度固定の先走りアームの先端にセンサーが付けてあり、スタートするとまずは33回転でターンテーブルが回り、アームを送ってレコードの有無を検出、EPレコードサイズまで進むと自動的に45回転に切り替わるというシンプルなアルゴリズムでした。
(当然、特殊なものは手動で切り替えできます)
この世代のプレーヤーの不具合はまずはアーム送り用プーリーのベルトとターンテーブル用のベルトの劣化。
その次がロジック回路のコンデンサーとトランジスタのパンクでした。
ロジック回路と言っても、ICなんて使っておらず、ディスクリートで組んでありました。
80年代後半になると、レコードサイズ検出とアーム送り機構が変化します。
スタートボタンを押すとレコードの有無を確認し、レコードが乗っていると判断すると埋め込み型のEPアダプターが一回持ち上がろうとします。
持ち上がればEP、(重くて)持ち上がらなければLPと判断し、回転数とアーム降下ポイントを設定して動作します。
そのため、この世代では角度固定アームが進行方向後ろ(向かって右)側にありました。
トーンアームの構造は旧世代とほぼ一緒、リニアトラックシステムは非接触光学式の角度センサーでアームの移動量を検出してモーターを回して追いかけるのは一緒ですが、ヘリコイドで直接ベースを動かすのではなく、糸で引っ張る形式でした。
などと話しを引っ張っておいて、やっとこ本題。
今回の生贄は、Technics SL-J2。
例によって「とりあえずレコード再生しました」的な記述があるジャンクな1985年製の国産リニアトラッキングフルオートプレーヤーです。
レコードジャケットサイズにクオーツPLLダイレクトドライブモーターとフルオートリニアトラッキングシステムを入れているため、蓋(ダストカバー)側にリニアトラッキングアームとピックアップが仕込んであります。
このプレーヤーのカートリッジはT4PとかPマウントと呼ばれる統一規格品で、交換するだけで調整不要なのはいいのですが、オーディオ下火のこのご時世では普通のカートリッジでさえ苦労するのに、更に選択肢がなくなってきています。
バラしてみたところ、アーム送り機構はB&Oの後期タイプによく似た、非接触光学式角度検出によるサーボモーター駆動と糸によるベースの移動システムでした。
(ぶっちゃけ、国産各社のリニアトラッキングシステムはリニアモーター式以外はB&Oのそれとよく似た構造なのがほとんどでした。)
アーム自体は、上下左右ともシンバルサポートのオーソドックスなスタティックバランス型のようです。
テクニクスのリニアトラッキング初期(SL-10等)はダイナミックバランス型だったようですが、これにはそのような仕掛けが見られません。
レコードサイズ検出機構は光学式で、曲間の検出も可能になっており、任意の曲数スキップとかも可能になっています。
ジャケットサイズといい、クオーツPLLのDDといい、曲間検出といい、ここら辺が日本製らしいですね。
まずは状態のチェック。
・カバーに割れてる箇所あり
・電源ケーブル(メガネタイプ)、出力ケーブル(RCA)、アースコードなし。
・カートリッジは純正ではなくSUREのM92Eがついている。
・スタイラスチップは生きているようだが、カンチレバーやハウジングがクチャクチャ。
・足のカバーが1個外れてバネがむき出し。
そこら辺のメガネケーブルと、何をやってもノイズが取れないゴミレコードで動作チェック。
・ターンテーブルの回転はOK、機械的なノイズもなし。
・アームは最初動くけど、再生はじめてしばらくするとその場から動かなくなる。(アーム送り用プーリーのベルト寿命)
輪ゴムをプーリーベルトの代用にして動作チェックをすると、アーム角度検出点と、リフトアップダウンポイントがえらく内寄りなこと以外、機能的
には生きています。
針圧は実測1.3g程度でM92Eのカバレッジです。
つまり、ここまでは調整で直る範囲です。
ということで、アキバでプーリーベルト(22mmと25mm径の1.25mm角ベルト@千石電商)と、N92E(M92Eの純正交換針@ヨドバシ)を入手。
ベルトを架け替え、角度検出とリフトアップダウンポイントを調整し、針を交換してアンプにつなぎ、いざ音出し。
アームが下りてミュートが解除されて。。。。
あれ?
左から音が出ない。。
慌ててケーブルやら内部配線やらテスターで手繰って行っても異常ありません。
まさかカートリッジ?
LCRメーターで確認したら、そのまさかでした。
左chがオープン。。
折角交換針買ってきたのに、本体まで買う羽目になりましたとさ。。
気を取り直して新しいカートリッジを注文。
届いたカートリッジを取り付け再生すると、リニアトラッキングらしい端正なサウンドが流れてきました。
(PL-50LIIの再生より、トータルコストがかかってしまったのは内緒です。)
バランス伝送化しようかどうか、悩み中です。。