ESL(ELECTROSTATIC LOUDSPEAKER)をつくってみた

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超やっつけ実験スピーカーから音が出た(笑)

球アンプを作ってふと思い出したのが、ESL(ElectroStatic Loudspeaker)
いわゆる静電型のスピーカーです。
もしかしたら作れちゃうんじゃね? と思って材料集めて作ってみました。

一般的な(普通の)マグネチックスピーカーは、磁界中のコイルに信号電流を流して振動板を前後に動かす力を得ますが、静電型の場合は磁力は使いません。
静電気のクーロン力を使い、振動板(板というか膜)を直接動かします。
振動膜を間に挟んで前後に電極を置く、もしくは振動膜を前後に配置して間に電極を置く方法などがありますが、どちらも構造が簡単で何気にDIY向きだったりします。

制作上の問題は、駆動電圧と振動膜の調達です。
静電気の力で膜を引っ張ったり離したりするのに必要な電圧は軽く見積もっても数100V。
モノによってはkV級の電圧を要求するようです。
また、振動膜は薄くて軽くて丈夫で電気を通す(バイアスもしくは信号の電圧で帯電する)必要があります。
また、感度を上げるにはギャップを狭める必要がありますがそれでは振幅が取れなくなりますし、振幅を取ろうとギャップを大きく取ると駆動電圧を相当大きくしないと感度が下がり、駆動電圧を上げすぎると放電が起きたりと、そもそもの取り扱いも難しくなります。

さらに使う上での問題として、それなりの音圧を歪みなく取り出すにはとても大きな振動膜面積が必要なのと、単位面積あたりの振動系質量が膜一枚(または2枚)と極端に小さく抵抗力もほぼないことから背圧が掛かるキャビネットに収めるような使い方ができずフリーエア(オープンバッフル形式)でしか使えないという構造のため、どうしても大きなサイズになり、基本的に平面波なのと併せてサービスエリアが狭く設置運用の難しさも伴います。

なんだか欠点だらけに見えますが(事実、オーディオの衰退とともにほぼ姿を消したのはこれらの扱いにくさと小型低廉化が困難なことからと思いますが)、マグネチックスピーカーにはない利点があります。

振動系単位面積当たりの重量がとても軽いため反応が良く、振動膜全体に均一な力がかかるためマグネチックスピーカーのような分割振動も発生しないことから、特に高域の周波数特性がとても良いことが挙げられます。
マグネチックスピーカーはコイルからの力を振動板のごく一部で受けて振動板全体を動かすため振動板を頑丈にする必要がありますが、重いと反応が悪くなりますし、軽すぎるとたわんでしまい振動板全体が信号(で作られる力)と一緒に動かなくなるのとは真逆です。
ちなみに今回実験で使った振動膜は、10cmスピーカー3個分くらいの実効面積で0.2gありません。

また、平面波でサービスエリアが狭い(指向性がきつい)ことを逆手に取ると、部屋の反射の影響を受けにくいということでもあるので、意外と場所を選ばないとも言われています。

といったご託宣はここら辺までにして、今回の実験です。

今回作る静電型スピーカーの構造は、中心の振動膜にバイアス電圧をかけ、前後に信号電極板を配置した一般的なものです。
バイアス電圧はDC数100V〜数kV、信号電圧は前後反対極性(バランス)で100〜数100Vくらい必要です。

私が作った球アンプは差動増幅のPush-Pullアンプです。
数100VのB電源、フルスイングのP−Pで数100Vの終段出力電圧という回路をぼんやり眺めていてこのままSTAXのイヤースピーカー動かせるなぁ。ってことはESLも動くんじゃないかな?
なんて思ったのがことの始まりです。

問題は材料です。
前後の電極はパンチングメタル(穴開き金属板)でいいのですが、振動膜にはバイアス電圧をかける導電性のフィルムが必要です。
先人はサランラップにエレガードなんていう手を使った方がいたり、シートにグラファイト(黒鉛)粉末塗ったり、アルミホイル使ってる方がいらっしゃったりとみなさん工夫されています。
入手性の良さではアルミホイルが一番ですが、単体金属箔は軽さとしなやかさに少々疑問があります。
そんな時、ふとお菓子袋が目に入ってきました。
これ、金属蒸着フィルムだよね。
とはいえ、これ少し厚いし固いし重いなぁ。もっと薄くて軽いのないかな。。
そういえば、サバイバルツールにアルミブランケットとかいうのあったな。。

で、調べてみたらアルミブランケットって、ほとんどがアルミ蒸着ポリエステルフィルム(メタライズドポリエステルフィルム)なんですね。
これ使えるかも。。。
ということで、
振動膜はネットで最安値のノーブランド品アルミブランケット(5枚で送料込み216円)、
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信号電極としてアルミのT1mmパンチングメタル(タカチの一番安いやつ)、
ギャップ用のスペーサーは100均のサインボード用カラーボード(5mm厚)、
両面テープ
などを調達。

サインボードを枠状に切ってフィルムをサンドイッチして接着、
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さらに電極板で挟み込んで実験用スピーカーをでっち上げてみました。

早速、真空管アンプのB電源とアウトプットトランスの一次側信号を使って音出ししてみたところ、蚊の鳴くような音しか出ません。
信号電圧が足りないのかとアウトプットトランスを外して一次二次を逆に使いトランジスタアンプから信号を供給、バイアス電圧も全波整流で800Vくらいにしてみましたが、ヘッドフォンにもならないくらいの音量です。
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やはり5mmじゃギャップが広すぎるかな。。
なんかいいものないかなと家の中を見回したところ、アマゾンダンボール箱の中敷き板がありました。これが2.5mmくらいです。
実験機ひとつをバラして作り変えました。
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これでやっとヘッドフォンくらいの音圧が得られました。
(マイクを電極ギリギリまで近づけてピーク70dBでした。)

やっつけでもこんな音がしますというサンプルを取り急ぎアップします。
ノイジーなのはバイアス電圧とアンプのゲインと実験ESLのサイズ不足のせいで音量が小さいためです。ご容赦ください。
モノラルですが、無圧縮のAIFFなのでサイズが40MB超えていますのでご注意ください。

http://www.ezto.info/ezhome/sound/files/ESL_DEMO_01.aiff

海外だとESLのDIYってそこそこあるらしく、もっとまともなの作ろうかといろいろ見たら、ギャップは1mmくらいなのと、フィルムももっと薄くて軽くないとダメなのね。。
そら音圧上がらんわけだ。。

ということでこの計画は実験止まりです。。(苦笑)