針交換不要、レコードの摩耗もないプレーヤー

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アナログの可能性、奥深さ

存在自体は知っていました。
デモ機も見て、音も聴いたことありました。
その時は環境もよくなく、あまりパッとしたイメージがありませんでしたが、久しぶりに出会ったそれは、 私の心に強烈なダメージとやる気を与えてくれました。

その名も「レーザーターンテーブル」

世界唯一、このプレーヤーを製造しているELPにお邪魔してきました。

レーザーターンテーブルは、レコード針(カートリッジ)ではなく、レーザー光線を使ってレコードの音声をピックアップする、非接触式のアナログレコードプレーヤーで、価格は仕様にもよりますが100万円前後です。

非接触式なので、レコード針のような短い寿命もなく、針でトレースすることによるレコードの傷みがないという点だけとっても、高価なカートリッジ50万円なんていうのを使うくらいなら、よっぽどコストパフォーマンス高かったりします。
まあ、この価格帯にコストパフォーマンスなんて言う単語が必要なのかと言われればアレですし、もちろん私はどちらも買えませんが。。(笑)

その他、技術的な優位点を挙げると、
レーザー焦点サイズを変えられたり溝の浅い部分をトレースするので盤面の中でも比較的傷んでいないところを使える。
トラッキングエラーやトレーシングエラーがなく、それらに起因する歪の発生がない。
再生時間と一般的な曲間の検出が可能で曲のスキップ等の操作がワンタッチ。
等が挙げられます。

欠点は、
黒くて肩のあるレコードのみ(赤盤含めてカラーレコードは掛からない)。
ゴミと埃に弱い。
溝が浅すぎたり45度に切れてないなどカッティングが下手なレコードも掛からない。
等があります。

ピックアップの生出力はアナログの逆RIAA特性電流出力で、そのままでは通常のオーディオ機器につながらないため、専用RIAAイコライザーアンプを搭載しており、ライン出力が基本です。
内蔵RIAAイコライザーはCR型とのこと。
また、内蔵RIAAイコライザーを通さずMMレベルのフォノ出力も選べる様ですが、ピックアップの生出力ではなく、I/V変換経由と考えられます。
いずれにしても、音声回路は完全にアナログ処理だけです。

とまあ、ご託宣はいいのですが、何故、プアオーディオ一直線野郎が、高価で買えもしないプレーヤーを、メーカーに押し掛けてまで聴いてきたのかと言えば、松本の友人がスピーカー担いでくる。というのと、ELP試聴室の写真にあった装置類が涙目物だったので。。。
何はともあれコバンザメ起動。
バッテリードライブアンプとレコードを抱えて、いざ南浦和へ。

ご対応いただいたのは、ELPの竹内氏。
案内された試聴室は壁3面がほぼレコードで埋め尽くされたうえに、棚に入りきらないレコードが箱に入って床に置かれ、さらに部屋に入りきらないものが廊下にまで進出。
というレコードで足の踏み場もないほどの状況。
部屋自体の気密や遮音性は高くない(というか、ぶっちゃけダダ漏れな)のも加え、試聴室の音響はスタジオの調整室から圧迫感をなくしたような感じで、抜けがよく、かつものすごくデッドです。

涙目物な試聴用の機材は、アンプがマッキントッシュのC-33とMC-2500、スピーカーがJBL4345スタジオモニター、比較用のターンテーブルがテクニクスSP-10MKII。
実はこの組み合わせ、私が中学生の時にオーディオに目覚めたきっかけの一つ、友人宅のシステムとほぼ同じ構成です。(友人宅はプリがC-32でした)
80年代中盤、CDが産声上げた直後のマッキントッシュとJBLの一番高いやつです。
当時JBLは売れに売れていた時期ですが、4345は滅多に見かけない珍しいものでした。
それが今、2014年の自分の目の前に。。。

なんて感傷に浸ってる間もなく、機械に火を入れてチェックをはじめられてますが、えっと。。
竹内さん。。。
とんでもない音圧出してます。
手元のiPhoneで確認すると、部屋の入り口でも軽く110dBオーバー。。
レコーディングスタジオ張りの音圧です。
MC-2500のブルーアイズ(メーター)の針が「常時半分より上に振れてる」の初めて見ました。

あとでお聞きしたら、竹内さんは元そっちの業界人だったそうで、様々な音楽や楽曲に対する造詣の深さと併せて納得。

それと、たまたま休日出勤されていた千葉社長ともお話し出来ました。
情熱、モチベーションの塊みたいな方で、静かながら熱く語る姿からは「実は自宅じゃレコード聴かないし、そもそもレコード持ってない」というのが俄かに信じられませんでした。

メインの用事を一通り済ませた後、時間をいただき、持って行ったレコード聴かせていただいたり、ラインとフォノ出力切り替えたり、持っていったアンプに繋ぎかえさせていただいたりと、レーザーターンテーブルを堪能させていただきました。

初っ端の音圧がめちゃくちゃデカかったので記憶比較もできず、脳内補正も追いついていませんでしたが、この段になってやっと傾向掴めました。

うちから持ってきたレコードでまず気づいたのが、ノイズの出方の違い。
うち(針)では聞こえないノイズがバリバリ出てたり、逆にうちでは気になってたノイズがほとんど聞こえなかったりします。
針とレーザーでは、溝に当たっている場所や面積が違うことが伺われます。
ライン出力とフォノ出力は、マッキントッシュと友人のスピーカーで聴く限り、フォノの方が私好み。というか懐かしいと言った方が正解かな。。
ラインだと高域が少しきつく、硬めに感じましたが、フォノで聴いたとき、友人宅での記憶が一気に蘇ってきました。

うちのアンプは(フォノイコは持っていってないので)ラインのみですが、レーザーターンテーブルにバランス出しがあったのでバランスでいただいてヒアリング。
ライン出力と言っても最近の機械としてはかなりレベルが低い様で、0.75V以上が前提のうちのアンプだとゲインが不足してフルボリューム(ゲイン20dB)。
通常ならこれでも相当な大ボリュームに感じるはずですが、それまでの音圧が100dBオーバーだったことと部屋の特性も加えてかなりおとなしく感じます。
この時、マッキントッシュのライン時のような硬さは無く、スムーズで透明感が出ていました。
また、歪感の少なさと、どんな針とも違う音色。
ダイレクト感が高く、フラットで癖を感じません。
言ってしまえばマスターテープの再生音に近く、この音がレコードで聴けるとは思いませんでした。

敢えて言えば、ダイレクト感が強すぎて疲れると感じる方がいるかもしれませんが、針のように、癖がついて元に戻らないものではなく、以降の再生系でいかようにも出来る高いポテンシャルがあると感じました。
逆に言えば、アンプとスピーカーの傾向を丸裸にします。
装置のサウンド傾向に敏感なミュージシャンに支持されているという理由の片鱗が見えた気がしました。

しかし、これは恐ろしい。。

自宅に帰ってきて、うちのレコードプレーヤーで同じレコード聴きなおしたときの一瞬の打ちひしがれ感と、なるほどここがこう違うか、という納得感と合わせて、こちらも俄然やる気が出てきました。(私はこれ以上どこに走っていく気なんでしょう?)

ひょんなことから「針を使わないレコードプレーヤー」を聴いてしまいましたが、ハード屋的に「針のレコードプレーヤー」の限界も見て(聴いて)みたくなりました。