音量そろえていますか?
音質とか音色/サウンドの比較や評価は、ボリューム(音量、音圧)を揃えないと正確性に欠ける。ということは基本的なことで、回路設計、電磁気学の師匠達から口うるさく注意されてきた事もあり、私の場合無意識にやってたりしますが、音量を気にしてなかったり、そのことを知らなかったりする方も多いようです。
今回はそこら辺の話です。
人間の聴覚はラウドネス特性というへんちくりんな特性を持っています。
人の耳は、音量が小さくなると低い音と高い音が聞こえにくくなる。と教わった方もいらっしゃるかと思います。
また、オーディオに興味をもたれる方のなかには、フレッチャー・マンソンとかロビンソン・ダットソンの等ラウドネス曲線を見たことがあると思いますが、コレのことです。
ちなみに、2003年にISO-226が改正され、この曲線が更新されています。
更にちなみに、被験者は18〜25歳の健聴者(耳の特性劣化がないと考えられる人たち)で構成されています。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20031022/pr20031022.html
http://www.aist.go.jp/science_town/living/living_10/living_10_01.html
なお、この曲線の確からしさとか、個々人の耳の優劣を語るつもりはございませんので念のため。
この特性、技術屋視点でいうと、人間の音に対する感度は「周波数特性的にフラットではなく」「音圧方向にリニアではなく」「人によるばらつきも大きい」という特徴があります。
人それぞれで異なるからと言って、人それぞれで補正する必要があるかと言えば、そうことではありません。
これは単純なことで、例えば、ライブ演奏を聴いているとしましょう。
あなたと隣にいる友人は、同じ演奏を、同じボリューム、同じ特性、つまり「同じ音」を聴いています。
いわゆる「原音」。
感じ方が違おうが、感度特性が違おうが、「同じ音」です。
問題はそこではありません。
再生装置で考えた場合「フラットではない」「リニアではない」「人ごと違う」ということから導き出される課題は大きく2つあります。
1:音の比較をする際、ボリューム(聴取音圧)を揃えないと、そもそも違う音に聞こえる。
これは、比較対象が、完全に同一特性の装置であっても、と言うより、ぶっちゃけ一組の装置であっても「音量を変えるだけで音が変わる」という事です。
2:楽曲等のコンテンツ再生にあたっては、制作者(達)が「これでOKとしたときの聴取音圧」と同じ音圧で再生しない限り、どんな装置を持って来ようとも制作者の意図した(OKを出した)サウンドにはならない。(ただし、録音、編集時の爆裂音圧はアラ探しですので、この様な特殊な音量はもちろん除外します。)
これ、以前に書いた「測定上どちらもフラットな周波数特性の真空管アンプとトランジスタアンプを同じスピーカーにつなぎかえた時に、実は周波数特性が変わる」という事実と同様に、かなり重要なことなのですが、なぜかこれも同様に扱いが低いです。
特に、2番目に関して言えば、基準信号が記録されていて、それがXXdB SPLになるようにしてお聴きください。なんていうソフトはありませんので、聴感特性まで含めた場合「これぞ原音」なんていう再生は、装置、環境の組み合わせだけでも困難を極めるのに、音量も加えたら天文学的な確率の低さでしか実現できなさそうです。
まあ、そこまで目くじら立てなければ「割とどうでもいい」話でもありますが。。
で、1番目。
人の感覚はおかしなもので、演奏中にAB切替えでもしない限りは、ほんの数dBの音圧の違いは音量の違いとしては殆ど気づかないくせに、大抵の人が、音を大きくした方を「こっちのほうが良い音」と仰います。
当たり前ですよね。音量が上がると聞こえにくかったローエンド、ハイエンドが持ち上がって、ぐんと伸びて聞こえるんですから。
その昔、会社勤め時代に新製品発表会の比較試聴でこれを(0.5dB差で)やって効果絶大。効果出すぎて後でバレて大目玉喰らったというのは、先の師匠のうちの一人の自戒を込めた武勇伝です。
かく言う私も、学生時代に某社のアルバイトで店頭ヘルパーやってる時に良く使いました。
(おぃ!)
お客さんにとって店頭という慣れない環境で、お客さんの聴きなれた音源でもなければ、ボリュームを結構ラフに扱っても気づかれることなく自社製品の方が「音がいいと言わせることが可能」でした。
また、メーカー勤め時代に、某ハイエンドオーディオ販売店の店員さん相手にも実験しましたが、みなさん面白いように引っかかってくれました。
もちろん引っかからない方も中にはいますが、極めて少数です。
また、引っかからない方は、その他の聴感に極端な難点を持っていたりもしました。
ということで、装置のサウンドを比較、評価する場合「聴きなれたソース」を「いつもの音量」でやりましょう。
お店で比較試聴するときは、切り替え操作はお店の人にやってもらっても、ボリューム操作は自分で行うことをお勧めします。
ちなみに、このネタ考えてる時に、こちらのブログに先越されてました。
切り口は大分違いますが、言いたい事は大体一緒だと思います。
http://www.tonmeister.ca/wordpress/2014/06/07/bo-tech-what-is-loudness/
冒頭のグラフは
ISO226:2003
ラウドネス等感曲線
です。