キットの真空管アンプの修理と改造

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真空管アンプをいじってみよう

実は我が家にも真空管アンプなるものが1台あるのですが、ハムノイズ(電源周波数に連動した「ぶ〜〜ん」というノイズ)が乗るようになり、現役を退いていました。

電子回路としての真空管は一応は習ったのですが、仕事で弄ったこともほとんどなく、トランジスタとは部品の定格(特に耐圧)が随分異なるので、これまで手を出したのはこの1台だけで、故障しても直す気が起きずそのままでした。

ところが最近、職場の近くでディスコン部品のデパートのようなお店を発見。
そこにザラザラ並んでいる真空管を眺めてたらなんだか弄ってみたくなってきました。(悪い癖)
とは言え、いきなり部品揃えて作るにも設計、製作実績があるわけでもなく、調子が悪いアンプの一つでも直せないことには上手くいかないべ。。
ということで、まずはこの調子の悪くなった真空管アンプの修理にチャレンジです。

モノはエレキットのTU-870。
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6BM8(電蓄/テレビ/ラジオ用の三極五極複合管)を使ったシンプルな二段増幅のシングルアンプキットで、出力は2W+2W(8Ω)というかわいいものです。
エレキットの中でも最安価なアンプで長年販売されていたのでまだあるのかと思っていたら、部品価格高騰とのことで2012年に販売終了になっていました。
値段からして汎用部品の集まりで、その昔は誰もピュアオーディオ用に使おうなどと思わなかった複合管(テレビ球)にちっぽけな出力トランスの組み合わせですが、電源トランスだけはRコアだったりする謎の構成です。

まずは状態の確認と切り分け。
ハムが出ているのは左チャネル。ゲインも右チャネルより少し小さいようです。
右からも小さくハムが出ていますが、元々小さくハムが出ていたので、元のレベルなのか増えてるのかはわかりません。
電源を切ると左チャネルはすぐに音が消えてしまいます。
意を決して電圧測定。
出力2Wと言えどもB電源はDC200Vを超えていますので注意しなければ。。とか言ってるそばから感電。(苦笑)
電源切った状態でテスター結線したんですが、元々コンデンサーを交換するなどの細かい改造をしていたので裸の配線がむき出しの部分があったりして、B電源側にいい感じの電圧が残っていたようで触っちゃったみたいです。
電源入っていない状態でよかった。(汗)

電源を入れて確認すると、左チャネルの終段グリッド電圧が12V超。
ここは前段出力をカップリングコンデンサで受けるのと、1MΩでグラウンドに落としてあるので、直流電圧は出ないはずです。
カソード電圧が15Vくらいなので、バイアス電圧が-数Vしかありません。
それ以外の電圧は正常範囲でした。
ということは、カップリングコンデンサがDC漏れしているか、球(真空管)がおかしいかのどちらかですね。
球を左右入れ替えてチェックしたところ、何故か電圧は両チャネルとも正常範囲に収まっちゃいましたが、右チャネルに、ハムが乗りスイッチ切ってすぐに音が出なくなるので、球不良決定。

で、球を交換すべく6BM8(ECL82)をネットで探したらなんか様子がおかしい。
あんなにいろんなメーカーの6BM8が数百円からあったのに、ほぼEH(ElectroHarmonixのロシア球)しか出てこない上にペアで6000円とかです。
6BM8にはヒーター電圧違いの姉妹管があるのですが、こちらも殆ど見当たりません。
どうやら各国での生産が終わったらしく、プレミアが付いちゃってるみたいです。(EHのUSサイトにはありましたが、日本サイトには記載なしでした。)
もちろんこの前発見したお店にもありませんでした。
なるほど、これではエレキットも販売終了するわけです。
真空管アンプがじわじわ流行ってるとか言っても、こんな感じに球の選択肢がどんどん狭くなったりトランス屋さんが廃業したり、こちらも極一部の生産継続品に限られた話でニッチな市場であることには変わりがないようです。

なんて感傷に浸ってる場合じゃありません。
私が探した範囲で最安の6BM8は、アマゾンのペア4115円でした。
背に腹は代えられませんので今回はこれを採用。
球を交換して元の状態に戻りましたので、ここから改造を始めます。

密かな目標としては三極管でバランスドライブアンプなのですが、それにはプッシュプルである必要があります。
しかし、TU-870はシングルアンプです。
目標に向かう前哨戦でできることというと。。
・出力段の五極管を三極管接続にする。
・出力段の信号経路を変えて定電流バイアスにする。
くらいでしょうか。

ネットを見ていると、プッシュプルを作った人がシングルに戻ってくるときに試されていることが多いようですが、私の場合は逆パターンですね。。(謎)
それはそれとしてTU-870は元がキットで数も出回っていたことから三極管接続も定電流バイアス化も参考になる記事が多いので真空管初心者には助かります。

三極管接続への変更自体は簡単ですが、このキットのB電源のリップルフィルターでは電源の平滑が心許ないので、半導体のリップルフィルターも組み込みます。
終段バイアスの定電流化も半導体の定電流回路を使います。
ネットの作例ではリップルフィルターにトランジスタ、定電流回路にレギュレーターICを使っているものが多い様ですが、回路図をぼんやり眺めてて、どうせA級増幅でバイアスも定電流化しちゃって負荷変動はほとんどないのだから、B電源も定電圧でいいじゃんということに気づいて、全部をレギュレーターIC(LM317)で組むことにしました。

また、細かいところで、作例ではNFBの低インピーダンス化も併せて行われたり、終段入力にあるパスコンを撤去されてたりしますが、帰還抵抗にパラに入れる位相補償コンデンサの容量を小さくしたいので帰還回路はそのままにして位相補償コンデンサ(47pFのスチコン)の追加のみとし、終段入力のパスコンは撤去ではなく、150pFから30pF(こちらもスチコン)への変更とし、併せてグリッド入力に1kΩを直列に挿入して発振防止としました。
今回の改造では極力高級な部品を排除しようと、低域の時定数にかかる段間カップリングは元々0.1μFに交換済みでしたが、あえて安物に変更します。(安物といっても、懐かしのマルコン)

終段バイアスの定電流化に使うLM317は、足に抵抗などの部品を直接半田付けして、回路変更のために外したカソードバイパスコンデンサの穴を使って直接基板に刺してしまい、ラグは使いません。
そのままでは足が太くて刺さらずヤスリで削る必要がありますが、配線引きずり出してラグを立てるより簡単で確実です。
また、カソードからB電源(トランス)に信号を戻す信号バイバス用のコンデンサは、職場近くのお店で見つけたニッケミKMCをつかいました。(KMGでもKMEでもないって、いつのだろ。。)
また、このバイパス用コンデンサには直接音声信号が流れるので0.1μFのフィルムコンデンサを並列につなぎました。

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ここで動作チェックをすると、
B電源のリップルが取れずにハムが乗っている。(時々消える)
終段のプレート、カソードに約6MHzの信号が乗っている。(オシロでB電源のリップル波形を観測していたら「線が太い」ので気づきました。)

リップルが取りきれていなかったのは、当初測った時、整流後の電源電圧が235Vあったのでレギュレーターの出力を実測224Vに設定していたのですが、時間帯(電源電圧変動)と負荷で、特に昼間は入力が220V近くまで落ちることがあり、リップルフィルターになっていなかったことが判明。
これはレギュレーターの出力電圧を210Vまで落として解決。
約6MHzの発振した様な信号は増幅回路の高域特性をバッサリ落としても出てくるので、LM317の動作(自己発振?)の様です。
こちらはLM317のADJとOUTにパスコンを入れて無事消滅。

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バイアスの定電流化と信号経路のバイパス化で低域のチャンネルセパレーションが改善され、サウンドは、A級シングルらしい流れる様な優しさと、向上した解像感、適度に締まった低域と、元のサウンドから大変身しました。
特に低域の締まりと伸びのバランスが絶妙で、あのブーミーで手を焼くLS-1001がとても気持ちよく鳴ります。
リビングメインの大容積フルレンジでボワボワすることもありません。
シングルかつこのサイズのトランスでここまで出来るんだと妙に感心しました。
もちろん限界はありますし、球アンプ独特の音色バランスになる(出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンス特性に依存する周波数レスポンスの変化が起きる)ので、好き嫌いは分かれると思います。

気を良くして、安売りしていた三極管でバランスドライブアンプ作ろうかと材料費計算したら、出力5Wでもトランス(もちろん廉価品)だけで1万円オーバー。
一応設計だけでもやろうと、ネットの記事を参考に昔の記憶を引き出しながらロードライン引いてみたりしています。