格安真空管でバランスドライブアンプを作ってみよう(設計編)
前回、キットの真空管シングルアンプを修理がてらバイアスの定電流化等をやってみたわけですが、今ごろ真空管を弄りだすきっかけになった「格安真空管」 を使ってバランスドライブアンプが出来ないものかとぼんやり考えながら設計図を書き、ロードライン引いて定数を考えたり、電源回路をシミュレーションしたりしてましたが、規模も大きくなく、なんとなく出来そうな気がしてきたので部品を買い揃えはじめました。
終段には安売りしてた12BH7A(双三極管)をパラで使おうと思い、前段に使う電圧増幅管の安いのを探しに真空管屋さんに足を運んだら、PCL86(14GW8)がこれまた格安で置いてありました。
PCL86(14GW8)は、前回弄った6BM8の親戚みたいな三極五極複合管で、三極管部はECC83(12AX7)、五極管部はEL84(6BQ5)と同じ特性だそうです。(ヒーター電圧が14Vという変わり種です。)
実はネットで真空管を探しているときにPCL86の存在は知っていたのですが、どの記事も購入は2010年前後で終わってたり、ネットで販売されているPCL86がさほど安くないというのもあり、あまり期待していなかったのですが、思いのほか安く出ていました。
これ4本で出力数Wのアンプが組める(ハズな)のですから採用しない手はありません。
ということで急遽予定変更。
純三極管構成から終段は五極管の三極管接続で再検討することにしました。
しかし「安い真空管」はネットじゃなかなか見つからないですね。。
銅箔スチコン同様、足を運ばないと安くておいしいブツにありつけないのはディスコンパーツでは致し方ないでしょうか。
まあ、変にネットで公開しちゃってあっという間に消滅したりオークション転売屋に買い占められたりするよりは60dB良いんですけどね。
それにしても生き残ってる昔ながらの部品屋さんは間口は小さくても奥が深すぎます。
さて、真空管の変更は良いのですが、問題もあります。
実はトランスを先に買っちゃってたんですよね。。。
電源トランスは12BH7Aと、6Vか12Vの電圧増幅管を使おうと思ってたので14Vの取り出しがありませんし、高圧側240V、280Vタップの出力定格はDCで100mAです。
アウトプットトランスは一次側8kΩのものです。
ここから慌てて設計図を描き直し、規格表、トランス定格とにらめっこしながらロードラインから引き直して定数を探ります。(要は再設計)
ところで真空管でバランスドライブってどうすんじゃい?ということについてですが、現用のトランジスタアンプでは差動入力してその出力を二組のSEPPでそれぞれ増幅し、正極負極の出力を得る形で実現していますが、真空管で同じ構成というのは現実的ではありません。
大体、真空管ではトランジスタのようなコンプリメンタリはありませんし、何よりアウトプットトランスが邪魔です。
逆に、アウトプットトランスがあるので直流が出力側に出ることがなく、一次側の両端を精度高く逆極性で駆動すればバランス駆動と言えそうです。
つまり、プッシュプル用トランスの一次側両端を逆極性で常時駆動(カットオフさせないように)すればよいことになり、回路的にはカットオフのないプッシュプルでよさそうな感じです。
B級、AB級プッシュプルのようにトランスで波形合成しない。とも言い換えられます。
真空管をカットオフさせないようにするにはA級にすればよく、一次側両端を正確に逆極性で駆動するには差動増幅にしちゃえばいいですね。
ということで、真空管でバランスドライブ(バランス増幅、バランス駆動)というと聞き慣れないかも知れませんが、今回の回路自体は、おそらくベテランの方から見ればなんと言うこともないA級の差動増幅です。
こだわり(チャレンジ)は細かいところになります。
こだわりポイントその1。
クロスフィードバックを掛けたバランス入力&バランス出力。(アンバランス入力にも対応)
回路的にはインバータ(反転増幅)となり、入力インピーダンスが低くなります。
低いといってもアンバランス10kΩ、バランス(HOT-COLD間)20kΩを確保するためフィードバック抵抗が100kΩを超えます。
ここらは私の現行MOSFETフルバランスアンプと一緒です。
こだわりポイントその2。
トランジスタとMOSFETによる差動用の定電流回路。
低い電圧から動作し(0.8Vくらいから定電流特性が得られる)、電圧対電流特性の安定度が高い。などから選択しました。
LM317を使った方が部品点数少ないんですが、キットの改造でLM317を差動増幅の電流制限で使ったら自己発振しやすく、パスコンで抑えても発振したような数MHzのノイズが残るのがわかったので選択から除外しています。
また、上手くすればC電源(負電圧電源)要らないかもしれませんので、そこらへんも探れればと思います。
逆にC電源をきっちり組めば半導体の定電流回路ではなく抵抗1本でもいいかもしれません。
(その昔、お師匠さんが高抵抗で電流を引き込んであげれば充分と言っていたのを思い出しました)
こだわりポイントその3。
電源に半導体リップルフィルターを採用してリップルを徹底除去。
目指すはバッテリーのように低インピーダンス&クリーンな電源です。
併せてリップルフィルターの時定数を使ってスロースタート(緩やか起動)を実現。
こだわりポイントその4。
基本的に安い汎用部品を使用。
部品を値段や性能で選ぶことはしても評判では選ばないように気を付けます。
なお、ここまでノイズ対策にこだわっておいてAC点火なのは低圧側電源回路の規模を大きくしたくなかった(要は部品代ケチった)だけです。(苦笑)
ここから各部の詳細検討です。
まずは問題の電源部。
A級出力段のバイアスポイントは、最大カソード電流の大体半分の電流で、直流、交流のそれぞれのロードラインと最大プレート損失カーブより内側の電圧であれば大体OKなのですが、PCL86の最大カソード電流は55mAです。
半分で27.5mA、4本あるので110mA。
手元のトランスの定格はDC100mAですので、10%オーバーです。
電源トランスに無理させてもいいことはないので、最大出力が低下しますが1本あたり25mA程度に抑えます。
初段で使う2mAは誤差範囲として目をつむります。
この状態で終段のプレート電圧は285Vくらいにしたいけど、表示定格いっぱいいっぱいのトランスでこれを確保できるかどうか。
パワーMOSFET1石のリップルフィルターの出力電圧はトランスの出力電圧に追従するので、負荷で変動しちゃいます。
この電圧をある程度正確に見積もらないといけません。
実物のトランスが手元にありますが、これだけ高圧な電源に対して数10Wなんていうダミーロードは持っていませんので、トランスの特性を取ってシミュレーションで求めてみたいと思います。
取り出したるはLCRメーターとワニ口クリップ。
100V入力タップをワニ口でショートして、出力側(0-240V間)をLCRメーターで測定します。
100Hz(このLCRメーターの最低周波数)時のESR(等価直列抵抗)が約100Ωでした。
このトランスは両波整流用なので、ブリッジ整流に直すと内部抵抗は半分の50Ωとなります。
シミュレーターの電源の内部抵抗にこの値を入れて、240Vタップから取り出す電圧としてピーク339V(240x√2)を入力、50Hzサイン波を出力、ブリッジ整流、ブロックコンデンサ、リップルフィルター、負荷を接続して、負荷に流れる電流を100mA~110mAになるように調整してシミュレーションスタート。
ブロックコンデンサの出力を見ると平均304V。
MOSFETのVGS(電圧降下)が大体4Vくらい、アウトプットトランスでの電圧降下が3V位として、MOSFETゲートの基準電圧は292V(285+3+4)が必要です。
304Vを292Vにするので、910kΩと20kΩで分圧して電圧を落とせば電源電圧(B1)288V、プレート電圧で285Vになります。
これなら280Vタップは使わずに240Vタップで済みそうですし、トランスの容量にも若干の余裕が出きます。
ちなみに、トランスの定格情報から近似値を出す公式があるらしいのですが、後からネット散歩中に知ったくらいでこの時は知りませんでした。。
低圧側はヒーターの定格電圧が14.5Vなので、5Vタップ3つ直列で15Vにして様子を見ましょう。
こちらはESRが小さく、実負荷時の電圧低下が読みにくいのですが、もしかしたら電圧はほとんど下がらないのかもしれません。
実装してから考えることにします。
あと、定電流回路の駆動にDC10Vくらいが必要なのと、1V以下で起動するけど念のための-2VくらいのC電源を用意したいのですが、トランス低圧側タップはヒーターで全部使ってしまい空きがないので、ヒーター電源から分配、ブリッジ整流、レギュレーター、MOSFETリップルフィルターでDC12Vを作って、抵抗&ダイオードで分圧して+10Vと-2Vを作ります。
増幅回路の定数はエイヤ!です。
普通逆だろ!というツッコミはご遠慮ください。
なんせ作った事ないので、ある程度のところで実際に組んで様子を見てみたいのです。
初段のプレート抵抗(直流負荷)を180kΩ、カップリング後の並列抵抗を475kΩとすると、合成(交流)負荷は約130kΩとなり、アイドル電流0.5mA、プレート電圧180Vとすると、電源(B2)は180+180kΩx0.5mA=270Vが必要です。
B1からB2への電圧降下量は288V-270V=18V
チャネルごとにCRリップルフィルターを入れるので、フィルターの抵抗値は18V/(0.5mA+0.5mA)=18kΩになります。
終段入力グリッドに1kΩと、三極管接続のグリッドに100Ωの「おまじない」を掛けます。
フィードバック抵抗にもパラで10pFの「おまじない」を掛けます。
回路的にみるとフィードバック検出ポイントがトランスの向こう側で直流が絶縁されているので、二次側を1kΩでグラウンドに引っ張っておきます。
また、入力オープンになった時にもノイズを拾ったりDC挙動がおかしなことになりそうなので、入力側端子側を1MΩでグラウンドに落とします。
おまじないの定数は。。「カン」です。
カンと言っても、音声周波数に掛からないロールオフ周波数になる定数であることは確認しています。
つづく。