ハイレゾ時代のアンプとスピーカー

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「ハイレゾ」(ハイレゾリューション)
日本語にすると「高解像度」

音楽、オーディオ業界あたりで俄かに盛り上がりを見せています。

と言いながら、オーディオにおけるハイレゾの明確な定義はなされていなかったりもします。
まあ、音源として、CDを超えるサンプリング周波数と量子化ビット数を持つPCMか、PCMに置き換えた時に、CDを超える特性になるPWMやPDM(DSD、ビットストリーム)データを用いて、それを再生する系を「ハイレゾオーディオ」としておけば、大きな齟齬は生じないと思われます。

2014/3/30 追記:JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)から、リリースが出ました。
http://home.jeita.or.jp/page_file/20140328095728_rhsiN0Pz8x.pdf
44.1kHz(48kHz)/16bit以上かつ、どちらかでも超えていればハイレゾを名乗ってもよいと言う事になった模様です。

CDを超える特性のフォーマットの音源データを扱うことから、再生する機器にはそのフォーマットのデータ、信号を「扱える機能」が「必須」となります。
つまり、ハイレゾフォーマットのデータ(ファイル)を扱うところからそのデータがをアナログ音声に戻すDACまでは、そのための機能がないとハイレゾの再生ができません。

具体的には、
1.ハイレゾフォーマットの音源(データ、ファイル、メディア)・・・主にファイル
2.ハイレゾフォーマットの音源をアナログ信号に変換する装置(機能)・・・プレーヤー、DAコンバーターなど
3.アナログ信号を増幅し、音に変える装置・・・アンプ、スピーカー(ヘッドフォン)

の3つの機能に分けた時、
1の「新たなフォーマットの音源が必要」であり、その音源データを扱う機能を持たない装置しか持ちあわせがない場合、
2の「新たな装置が必要になる」ということです。
3の「アナログに戻った後の信号」の取り扱いは、本質的には既存のオーディオ機器と何ら変わりはありません。

「新たなフォーマットの音源」「新たな装置」
業界が騒がしい理由はもうお分かりですね。

巷では、既にハイレゾフォーマットの音源データそのものにおいて「ニセレゾ」なる話題もあったり、DAC機能についてもいろいろありますが、今回は「ハイレゾ時代のアンプとスピーカー」について。

一部のメーカーでは、すでに「ハイレゾ対応」を謳ったアンプやスピーカー、ヘッドフォンをリリースしてたりしますが、プレーヤー、DACのように「対応していないと音が出ない」のと違って、単品アンプや単品スピーカーは実際問題何がハイレゾ対応なんだかさっぱりわかりません。(もちろん、DAC内蔵アンプとか、DAC内蔵パワードスピーカーなら「対応」している必要がありますが。。)
まあ、せいぜい、20kHzを大きく超える超音波領域の周波数特性やS/Nが考慮されてる程度かと思いますが、真空管やD級アンプやミニコンでもなければ20kHzより上が全く通らないアンプの方がどうかしてますし、20kHzでスパっと切れちゃうスピーカーなんてのもありませんし、S/Nも目を見張るような値なものもありません。

それより、気を付けたいのがbit深度。
いわゆるダイナミックレンジ、分解能です。

アナログレコードのダイナミックレンジは良くて65dB、CDのダイナミックレンジは理論値で96dB。
アンプのダイナミックレンジはアナログレコードで70〜80dB、ラインで100〜110dB前後。
リスニング環境の暗騒音は良くても(レコーディングスタジオクラスの防音性能でも)30dB(SPL)前後。
強力なスピーカーとスタジオ並みの完全防音の部屋で最大音圧110dB出せたとして、その差(ダイナミックレンジ)は80dB。
通常、市街地やマンションで90dB(SPL)を超えるような音を出せば近所迷惑ですので、家で再現できるダイナミックレンジは60dBも取れれば御の字です。
我が家もご多分に漏れず、エアコン切っても暗騒音30dBを切れることはなく、35dBがいいところ。
誰もいない日曜日の真昼間にアホみたいにボリューム上げてピーク音圧100dB、夜中なら90dBが限界ですので、ダイナミックレンジは55〜65dBがいいところです。
(余談ですが、暗騒音が20dB台やそれ以下の環境に人が入ると「自分の血流音」で発狂しそうになると思います。)

アンプとスピーカーと環境と、耳の性能や特性を考えても、現実世界のオーディオで再現できるダイナミックレンジは90dB(15bit相当)あたりが限界です。

性能だけなら、実際の(大多数の)リスニング環境より装置の方が完全に上回っていますが、それでもアンプを見直したり、スピーカーのセッティングを変えることで、聴き慣れたソースでさえ「こんな音が入ってたのか」と驚いたりもします。
言い方を変えると、CDやアナログソースでさえ、そのポテンシャルを引き出し切れておらず、まだまだやるべきことがあるとも言えます。

翻ってハイレゾの分解能。
24bitリニアPCMフォーマットのダイナミックレンジは144dBにもなります。
この段階で人間の限界(120dB)を大きく超えてるのと、実はアナログ回路でこのダイナミックレンジは再現できないことも分かっています。
ただし、録音、編集段階では、このビット深度の余裕がとても重要だったりします。
逆に、ものすごく高品質な機材を使い、一発録りした音源でもない限り、ソース側でも24bitのダイナミックレンジは使い切っていないとも言えます。

良く言えば「ハイレゾでどこまで深い表現をしてくれるか楽しみ」ですが、穿った見方をすれば「アナログやCDが再現しきれていない状況でハイレゾ入れて何が変わるのか?」です。

アンプやスピーカーにとって、ハイレゾの再現はCDやアナログ以上に非常に難しいものでありますが、逆に言えば、ハイレゾ時代を迎えようとも、アンプやスピーカーにとっては、アナログやCDフォーマットも(フルスペックで鳴らし切るには)まだまだ奥深いソースであったりします。

新しいフォーマットが増えたからと言って右往左往することなく「音楽を楽しむ選択肢(ソース)が一つ増えた」くらいに捉えておくのがよさそうです。