アナログレコードの性能限界とレコード針の関係
アンプであれば、ほとんどの場合、性能が一番よくなるのは飽和する直前で、その限界を超えない程度に信号レベルを大きくとることでノイズや歪を小さく抑えることが可能です。
しかし、アナログレコードは 内側に行くほど基本性能が悪くなることと、記録レベル(溝の振幅)を大きくするとドンドン歪が増える特性があり、レベルが小さいと歪は小さいのですが逆にノイズに埋まりやすい。と言うなんだか難しい特性があります。
このためプリプロの世界、特にレコードの溝を掘るカッティング工程のエンジニアには、ノイズに埋まらずかつ内周側で歪んだ感じを与えない様に掘る技術が要求されますし、もっと言えばその一つ前工程であるマスタリングのエンジニアやプロデューサーやアーティストにも、カッティングに無理が出ないような音作りや楽曲の構成が要求されました。
(今で言えば、圧縮音源に変換する工程に近いでしょうか。。)
このカッティング工程には、最終的に上手く掘れているかどうか試聴で確認する手順があるのですが、最終的にリスナーの手に渡ったレコードは(相当特殊な企画型のレコードでもない限り)どんな針が使われて再生されるのか、などというのは製造段階ではわかりません。
このため、この試聴に使うカートリッジの針先形状としては、「一番普及している」丸針を使うのが一般的です。
現在日本で唯一となったレコード製造会社、東洋化成さんの取材映像を見ても、丸針のDL-103を使っているようです。
つまり、良心的に考えれば世の中のレコードは丸針で再生して問題ない様に製造されている「はず」です。
一部のかたが、レコード針は丸針で充分とか、丸針がいいんだとか、更に過激なご意見として丸針以外はダメだとか、ナンセンスだとか、カッティング時の試聴用カートリッジで再生するべきだ、とか言われる大きな要因(主な根拠)となっているように感じます。(憶測の範囲は超えませんが。。)
とは言え、針先形状と溝の振幅(線速度)による歪み特性は計算で求めることが可能で実測との親和性も高く、針先形状でこの特性が変化することも事実です。
何より、レーザーであれ、針であれ、(程度の違いはあっても)内周側で増える歪み自体がなくなることはありません。
もっとも、歪みの感じ方も人それぞれですので、丸針で問題なく音楽が愉しめるならそれに越したことはありません。
ただし、逆に、歪みの混ざり具合はカッティングエンジニアの腕や、そのレコードのターゲットや位置づけでも変わりますし、レコードを聞く人の歪みに対する許容度(敏感さ)によっては、内周側の歪みが気に障って音楽が愉しめないという場合もあるわけです。
「エンジニアを信じて(ある意味我慢して)丸針で聞く」とか「丸針で内周側が歪んで聞くに堪えない様なレコードは窓から投げ捨てる」というのも選択と思いますが、「針で改善出来て内周側の歪みが気にならないレベルに抑えられるならそれに越したことはない」というのも選択の一つではないでしょうか?
といったところで、アナログレコード内周側で起きる歪み感を極力抑えるには針先形状が結構重要な訳ですが、我が家のカートリッジの中でその要求を叶える「現行商品」のラインコンタクト針は、MMカートリッジのJICOのJR-125Sだけです。
JR-125Sは、内周側歪み感の小ささもさることながら、繊細で解像感も高く、特にアコースティックな楽曲にはとても魅力的で、演奏の一体感も感じられる麻薬的なところがあるのですが、MC-20の流れるような繊細さや細やかで丁寧な解像感とも違うし、MC-Q5のソリッドでダイレクトな感じとは逆方向な傾向にも思えます。
う~~ん。。
現行商品でMC型のラインコンタクト針も欲しい。(結局そこかい!)
現行OrtofonのMCカートリッジでは、MC-Q20がファインラインと呼ばれるラインコンタクト系の針で一番安いモデルです。
が、我が家には既に楕円針のMC-Q5がありますし、老兵MC-20はファインラインです。
同シリーズの針を揃えても、どれかを使わなくなってしまうだけで面白くありません。
オーディオテクニカだとAT-33PTGIIが選択肢に挙がりますが、こちらも楕円のAT32-EIIを持っているのでやはり面白味もなく、その他のメーカーのは大概二桁万円になっちゃうのでおいそれとは手が出ません。
どうしたものかと悩んでたある日、ひょんなことからZYXのR50 Bloomが手に入りました。
ZYXは、OrtofonでMC-20の設計を手掛けた中塚氏が主宰されている日本のカートリッジメーカーです。(ちなみに千葉県に工房があります。)
全機種ローインピーダンスのMC型で並木精密宝石のマイクロリッジスタイラスを採用しています。(中塚氏は並木精密宝石にも在籍されていた方です。)
R50 BloomはZYXの中では最低価格のもので、上位機種と比べると、カンチレバーがアルミだったり、リッジの曲率半径(溝とのコンタクト幅)が大きかったり、磁気回路やコイル/ワイヤーの素材が違ったりはしますが、同じ巻き方のコイル、内部インピーダンス4Ω、出力0.24mVのローインピーダンスMC型で、スタイラスチップはマイクロリッジというZYX最大の特徴は完備しています。
ということで、図らずも同じ方の設計によるカートリッジが約40年の時を超えて揃いました。
なお、ZYXのベーシックグレードはR100らしいのですが、MC-20もR50も青い筐体なので、勝手に同じクラスだということにしておきます。(笑)
ZYX R−50 Bloomのサウンドですが、繊細緻密にして鮮烈、タイトでダイレクト、存在感やライブ感はこれでもか!というくらい明快明確な音の出方です。
肝心の内周側歪みは、やたらと目立つレコードを聞くとMC-20やJR-125Sとの比較でわずかにザラつく感じがありますが、通常は問題ないレベルに抑えられていて、安心して(ドキドキイライラなしに)聞けます。